現在、米国の制裁と封鎖強化により、ベネズエラ産原油の輸出が大きく制限されている。
その影響で、ベネズエラからの中国とキューバ向けの供給は「ほぼ止まった状態」に近い。
世界全体の原油価格への影響は小さいが、エネルギーと国際政治の関係が改めて注目されている。
本記事では、なぜベネズエラ産原油が止まったのか、米国が制裁をする理由、世界への影響などを分かりやすく解説します。
そもそもベネズエラと米国の関係性って?

米国とベネズエラは、1990年代までは原油取引を軸に比較的安定した関係だった。
しかし、1999年のチャベス政権の発足以降、社会主義路線と反米姿勢が鮮明となり関係は悪化する。
特に、2002年のチャベス政権のクーデター未遂事件が「米国がクーデター勢力を支持したのでは?」といった疑惑がベネズエラ内で高まり、相互不信が深まった。
そして、今回のベネズエラ産原油の完全閉鎖状況にまで進んだのだ。
米国が行ったベネズエラへの制裁やできごと年代まとめ

米国によるベネズエラへの制裁は、いま話題になっている封鎖事件だけではない。ここでは、年代別に過去のできごとを振り返っていこう。
- 2019年:売れなくした
- 2020年:実際に止めた
- 2025年以降:誰も運べなくした
2019年:原油取引を止める決定が下された
この年、米国はマドゥロ政権を正統な政府と認めないと表明し、ベネズエラ産原油の米国向け輸出を禁止した。
これにより、米国の港には入れず、米国の銀行や保険も使えなくなった。
米国は、原油収入がマドゥロ政権の資金源になっていると判断し、経済的に圧力をかける方針を取ったためである。
2020年:原油を積んだタンカーが実際に止められた
2020年には、制裁を回避して取引を行ったとみなされたタンカーが、第三国の港などで差し押さえられ、積んでいた原油が没収された。
制裁を破って原油を売る動きが続いたため、米国が「ルール違反は許さない」という姿勢を実際の行動で示したとされる。
2021年〜2024年:輸送は続くが、常に不安定な状態
この期間、中国やキューバ向けの原油輸送は続いていたが、船舶の手配や保険、決済は常に制裁リスクを抱えていた。
輸送は成立しても、綱渡りの状態といえる。
2025年末〜2026年:タンカーが動けなくなった
2025年末以降、米国は制裁逃れの監視を一段と強化。その結果は以下のとおり。
- 出港直前で計画が中止される
- 航行中に引き返す
- 中国・キューバ向け輸送が事実上停止
船・保険・船籍・寄港地までチェックされ、ベネズエラ側の関係者はリスクが高く、身動きができない状態に。
なぜ制裁する?政治的対立だけではない米国の3つの本音

米国によるベネズエラへの制裁は、ただの政治的対立といった理由だけではかなり厳しいと思う方も多いのではないだろうか。
ここでは、政治的対立だけではない、本当の理由を3つ紹介する。
1:制裁を無視する国を許すと米国が困るから
1つめは、米国の制裁を無視されると、立場が弱くなるという現実的な理由だ。
もしベネズエラが「制裁されても石油を売って生き残れる」という前例を作ってしまうと、他国も制裁を無視し始めたり、制裁自体の効き目が落ちてしまう。結果、米国の影響力が弱まるのだ。
そのため、米国は制裁を受けたら本当に困る状態を見せる必要があるといえる。
2:ベネズエラは石油を持つ影響が大きい国だから
2つめは、ベネズエラが世界最大級の原油埋蔵量を誇る国である点だ。
原油は現金化しやすく、制裁下でも売り先を探しやすい特徴がある。
仮に原油収入を自由に得られるのであれば、制裁はほとんど意味がない。
1つめの理由ともつながるが、そのため、金融だけでなく、物流・保険・船舶まで制裁を広げたのだ。
3:中国・ロシアとの関係が絡むから
最後の理由は、米国が抱える、中国やロシアとの関係問題だ。
ベネズエラは今までの制裁下で、中国からの融資やロシアとの軍事・エネルギー協力を深めてきた。
米国から見ると、自国の影響圏と考えてきた中南米に中国・ロシアが深く入り込むことになる。
そのため米国は、ベネズエラだけでなく、中国・ロシアへの牽制の意味合いとしても制裁を強める理由があるといえるだろう。
なぜ中国とキューバ?ベネズエラが原油を輸出していた理由

米国との関係が悪化し、米国市場やドル決済が使えなくなる中で、ベネズエラは原油を買ってくれる国が緊急で必要だった。ではなぜ、中国とキューバが売り先に選ばれたのだろうか?
中国への輸出理由とメリット
中国へ輸出する理由とメリットは以下のとおりだ。
- 米国制裁に比較的影響されにくい
- 巨大な原油需要を持つ
- 融資と引き換えに原油を受け取る取引に応じた
実際、ベネズエラは中国から巨額の融資を受け、その返済を原油で行う「石油担保融資」を長年続けてきた。
そのため中国向け輸出は「商業取引」であると同時に「借金返済」でもある。
キューバへの輸出理由とメリット
一方のキューバ向けは、経済取引というより政治的・同盟的支援の意味合いが強いようだ。
- チャベス政権以降、ベネズエラとキューバは強い同盟関係
- キューバは米国制裁下にあり、エネルギー調達が困難
- ベネズエラは原油を提供し、見返りに医療・治安・行政支援を受けた
つまり、原油と人的サービスの交換である。
この供給は利益重視ではなく、「反米陣営の結束」「社会主義圏の相互支援」という政治的意味合いが大きい。
制裁があっても世界の原油市場への影響は小さい

中国・キューバへの原油輸送が米国の制裁でストップしても、原油市場への影響はなぜ小さいのか?
それは、止まった量が、世界全体から見ると小さいから。
世界の原油市場は約1億バレルにものぼり、ベネズエラから中国・キューバへ送っていた数十万バレルは世界的に見て小さい量だったので、止まっても価格全体には反映しずらい。
また、ベネズエラ産原油は、重くて扱いにくい「重質油」であり、主役級の原油ではない点も影響が少ないポイントだ。
また、主な買い取り先であった中国では、すでに中東やロシア、アフリカなどの調達先の代替えも効く。そのため、世界市場としても困らない結果となったのだ。
まとめ

今回、世界的な原油市場への影響は少ないものの、政治的な制裁や封鎖が、実際のエネルギー供給を直接止めてしまう時代に入っていることを示している。
原油市場は単に生産量や需要だけでなく、輸送、金融、保険といった要素とも強く結びつく重要な大動脈だ。
ベネズエラ産原油を巡る動きは、今後も国際政治とエネルギー市場の関係を考える上で、重要な判断材料となり続けるだろう。
